NJFの読書日記
「図書館司書と不死の猫」のあらすじ、読んだ感想
リン・トラス (著)、玉木 亨 (翻訳) の「図書館司書と不死の猫」を読んだので、そのあらすじ、良かった点、感想をまとめています。 ネタバレや少しきつめの内容の感想が含まれているので、まだ読んでいない人や批判的な意見を見たくない人はご注意ください。
あらすじ
妻を亡くし、仕事も退職した主人公の男性が、暇を持て余していたので、以前にメールで送られてきたデータを見てみると、喋る不死の猫についての信じられないような内容が書かれていた、というところから話は始まります。
冗談か創作か何かと思っていたところ、その内容は自分にも関係していることが分かり、さらに人間の不審死などへと話は広がっていき、最後には、意外な真実が明かされます。
良かった点
良い点としては、まず、メールなどの内容をうまく使った全体の構成はおもしろいと思います。 先が気になって読ませるようになっていました。
不死の猫が自分の事を話す部分も、人間とは違う、普通ではない話の展開になるので面白かったと思います。 しかも、この猫は聡明で普通ではない体験をしているため、魅力的なキャラクターでした。 クライマックスも、間抜けな主人公の視点より、猫視点の方で読みたかったぐらいです。
翻訳も、あまり気になるところはありませんでした。
装丁もイラストがかわいくて良いと思います。
感想(ネタバレあり)
正直なところ、私の好みには合わなかったです。
タイトルに惹かれて読んだのですが、猫はともかく、図書館司書はそれほど意味がありません。 そもそも、語り手の他に作中の資料を書いた人物がいて、彼の視点でも物語は進みます。 つまり、人間の主人公は実質二人いて、司書なのは語り手の方だけ、しかも現在は退職していて「元司書」です。
他に猫が自分語りをする場面もあり、主人公は三人いるとも考えられるでしょう。 こちらは、タイトル通り不死の猫です。
また、司書が本の知識を生かしてなにかする、という場面も少なく、「別に司書でなくても良いのでは」と思う内容です。 一応、図書館が舞台の場面もあるのですが、別に主人公が司書でなくても「友達が司書で中に入れてもらった」ぐらいの設定でどうにかなるような気がします。
タイトルからすると、いわゆる「ビブリオファンタジー」と呼ばれるジャンルの本かと思っていると、肩透かしを食らうでしょう。
それもそのはず、原題は「Cat Out of Hell」、つまり、「地獄から来た猫」となっています。 つまり、そもそも登場人物が司書であることは、必ずしも話の中心とはなっていないのです。
思わせぶりな日本語タイトルとは少し違い、原題がB級ホラーっぽい雰囲気なのにあわせて、コミカルな部分もありつつミステリ要素なども入ったホラーになっています。
ただし、日英の文化的な差なのか、それほど笑える感じは気はしません。 ミステリ要素はあまり意外性がなく、謎のままで残される要素もあり(1回だけ喋る犬とか)、物語に深みを与えると言うより消化不良と感じました。 ホラーとしては、猫の話、しかも伝聞や過去の出来事が中心なので、切羽詰まった感じもなく、あまり怖くありません。 どの要素も中途半端、という感は否めないですね。
さらに、章が変わるたびに、主人公の言い訳じみた一人語りが入るので、いちいち話が止まります。 そのせいで、だんだんと読むのが面倒になってくるのも、個人的に受け入れられませんでした。 特に最後の章では、回想が始まる前に自己評価をして採点し、そのあと話が終わってから、また再評価しなおすのは、「それ必用か?」と思わざるを得なかったです。
回想で語られているので、ただでさえ本人は死なないのが分かって緊張感が無くなるのに、先に評価までしたら、どんな話の流れか予想できてしまい、読む気が失せてしまいます。 そして、話が終わってからまた同じ事をやるのは、蛇足だとしか思えません。 論文ではないので、冗長な部分があるのはかまいませんが、その代わり読んで面白いような文章や内容にしてほしいです。
しかも、それだけもったいぶっておきながら、肝心のクライマックスでは、主人公は空腹でおかしな行動をしたあげく、気絶しますからね! 大立ち回りまでは期待していませんが、司書らしく知識を生かした舌戦ぐらいはして欲しかったです。
展開が速く、派手な事が起こる最近のエンターテインメントになれた人には、全体的に物足りなく感じることでしょう。 「喋る不死の猫」というのも、特に珍しくないアイデアですし。
作者は文法についてのエッセイでベストセラーがある人なので、そのファンが読んでいる本なのかな、という気がします。
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日本の作家などでも、すでにファンのいる人がジャンル違いの本を出すと、そのジャンルではそれほど目新しくも完成度も高くないのに、そのジャンルを読んだことのないファンの人が高評価をつけていくので評判が不自然にあがることがあります。 それと同じ事が起こっているのかもしれません。