NJFの読書日記
「世界の危険思想 悪いやつらの頭の中」体験談としての重みはあるが、タイトル負けしている本
丸山ゴンザレス「世界の危険思想 悪いやつらの頭の中」を読んだ感想です。
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概要
テレビ番組「クレイジージャーニー」などで有名なジャーナリスト、丸山ゴンザレスが今までの取材の中で出会った危険な考え方をする人々のエピソードを集めた本です。
タイトルには「危険思想」とありますが、思想を論じているというより「こんなこと考えてるらしいよ」ぐらいの内容です。
読んで良かった部分
本の中では、殺し屋、麻薬取引、スラム、非合法取引などの主に海外での取材のエピソードが紹介されていて、普通は触れることのない裏世界についての情報がある程度分かるのは興味深い点でした。
また、本やネットでは得られない、現地での生の情報が含まれているのも、評価できるところでしょう。
例えばロマについて国内でネット検索すると、差別や人権問題に絡めた議論がされている事がほとんどです。 しかし、現地で実際に周りの人がどういう風に捉えているかや、ロマの人たちの中にはどんな人がいるのかといったことについて、解説していることは少ないように思います。
この本の中では、実際にロマのいる場所に行って周りの人たちの意見なども聞いているため、そういったなかなか触れることのない情報が書いてあるのは参考になります。 人権や差別と言った単純な綺麗事で済むような話ではないというのがよく分かりました。
こういった部分は、この本を読んで良かったと思えました。
今ひとつな部分
この本では、新たに何か取材を行ったというわけではなく、過去に取材が行った時の体験談をまとめてあります。 また、エピソード同士のつながりはあまりありません。 そのため、旅行が好きな年配の人が出会った旅行先での危険な体験を、まとまりなく並べただけみたいな読後感でした。
もちろん、危険な場所の取材なので普通の旅行とは違う内容が書いてあります。 文章の体裁などからそういった印象を受けるという意味です。
また、その断片的なエピソードをなんとかタイトル通り「危険思想」という話にまとめたいのか、説教臭い文章が所々に挟まります。 それがさらに「おじさんの旅行先の昔話」という印象を強めている気がしました。
その文章もあまり上手いわけではなく、説明や描写なども乏しいです。 以前の出来事なので本人も細かい部分を忘れているのかもしれません。
また、写真はあるのですが、必ずしも文章に直接関係しているわけではなく、しかも黒く潰れて何が映ってるのかわからないものもあるため、情景が思い浮かびにくく内容に入り込めません。
考察も正直なところ貧弱で、社会情勢などを踏まえた説明をしてくれる別の人の解説があった方がよかったかもしれません。 そもそも、どういう社会的バックグラウンドがあるのか必ずしも説明されないので、どうしてそうなったかがわかりません。 結局ネットなどで調べてみないと、この本だけでは完結しないという感じでした。
かといって、役に立たないかと言うとそんなことはありません。 上で書いたように、インターネットで検索して調べて出てくるようなこととはまた違う、現地の実際の様子がわかるので新しい知見が得られるのは確かです。
しかし、タイトルのような内容を期待していると、肩透かしを食らうことになるでしょう。
まとめ
正直なところ、かなりタイトル負けしていると言わざるを得ない本ですが、ある程度現実の姿が捉えられるという意味では悪くはない本だと思います。
テレビや他の書籍などで、実際に危険地帯に行っている人だと分かっているので、説得力もあります。
逆に言うと、それがなければ読む価値がかなり減るのではないでしょうか。
テレビなどを見て作者がどういう人か知っていて、かつ、ちゃんとした情勢や思想については他で調べるつもりなら、補助的な情報源として参考になるかな、という本でした。